松谷修二 個展
2021.11.8(月)- 11.14(日)
10:00 - 18:00 (最終日16:00まで)
彩光舎絵画教室・テンペラ画クラスの講師・松谷修二の個展を開催いたします。
ぜひご高覧ください。
くりかえし繰り返し見つめているうちに、絵の中の顔が泣いているのに気がつ
いたのです。プラド美術館でフランドル派の十五世紀に描かれた「十字架降下」を模写しつづけて何ケ月かたったときの松谷修二の述懐に、ぼくは小さな感動をおぼえたものだ。容易なことではないが、ひとつのモチーフを追いつづけているとき、突如としてモチーフがその内奥を開いてみせることがある。心といったことではない。絵は具体的なものだ。表面のテンペラの色はとうに消えうせているけれど、その頬に一滴落ちた涙の輪郭をなぞることさえ出来るだろう。
松谷修二が、芸大でぼくの教室に入ってきたときは、まだ少年ぽかった。小柄で
人なつっこい眼。どんなアルバイトで絵具代を稼いでいるのか、食費はほんの少
しあればいいんですと笑っていた。スペインに住んで十四年になるというがこの
男は何処に住んでも同じことで、終日、一枚の絵と向かいあっている。模写と
いうのは、その時代の技法なり構成を学ぶことだとぼくは思っていたが、電気の
ない時代に描かれた作品に近付くためには、テレビを避け、夜の読書もできるだ
け控えねばならない。そうして深く入り込んでゆくうちに、描いた人たちの生活
が浮かびあがってくる。中世の画家が神への祈りとして刻みこんだ画面に、日々
培われて、模写は少しづつ再生の光を与えられてゆく。原画に、消えた涙が現れ
たとき、それを描いた五百年前の人々の信仰が、今の若い画家に伝わってきたの
だ。その感動をみなさんに見てもらいたいという松谷修二の顔は少年のままだ。
野見山 暁治(文化功労者、文化勲章受章 東京藝術大学名誉教授)
ギャラリー彩光舎はさいたま市浦和のアートギャラリーです。
明るく開放的な空間。どなたでもお気軽に展覧会ができるアートスペースとして多くの皆様にご利用いただいております。
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